コラム|AI人材
AI人材の育成方法:使える人ではなく、利益を生む人を育てる
ゲーム事業で研修を担当し、改善組織を広げた経験から、AIで利益を生む人材の育て方を、実践した本人が解説する。
執筆:三浦慶介(株式会社グロースドライバー 代表取締役)
AI人材とは何か
「AI人材」と聞くと、AIツールを使いこなせる人を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。しかし、同じAIを使っても、成果は人によって大きく変わります。
差が出るのは、AIへの指示の質です。指示の質が高ければ良い成果物が大量にでき、低ければ直しの手間ばかりが増えます。
指示の質を決めるのは、操作の腕前ではありません。「何のために、何を実現するか」を決める力です。
そこで私は、AI人材の力を3つの軸で見ています。
- 目的定義力:顧客の価値や事業の成果から逆算して、何を実現すべきかを自分で決める力
- 領域横断力:マーケティング・営業・データ分析など、複数の領域を実務の水準で理解し、つなげる力
- AI操作力:AIに適切に指示し、出てきたものを評価し、業務の流れに組み込む力
このうちAI操作力は、研修で身につきます。利益を分けるのは、残りの2つです。本稿では、AI人材を「AIを使える人」ではなく「AIで利益を生める人」と捉え、その育て方を書きます。
実践:ゲーム事業のマーケティング研修
大手ネット企業のゲーム事業で、マーケティング担当者向けの研修(全3回、宿題と講評つき)を担当したときの話です。生成AIが広まる前のことですが、目的を決める力をどう育てるかは、今と同じ問題でした。
着手したときの状態
担当者の多くは、広告の運用やプロモーションの実務に詳しい人たちでした。一方で、マーケティングを広告とプロモーションの仕事と捉える人も多くいました。
そこで研修の目的を、事業全体の成果を伸ばす力の底上げに置きました。
違和感:手法は詳しいのに提案が弱い
宿題の回答を読むと、数字を改善する案はたくさん出てきます。ただ、運営する側の都合で考えた案が目立ちました。
「この月の数字が低いから上げる」という案で、「顧客にとってうれしいか」という問いが抜けていたのです。
学生向けのデータ分析インターンで講義をしたときも、同じ傾向がありました。難しい分析手法を重ねた末に、「すべての数字を上げましょう」と提案してしまうのです。
手法を知っていることと、成果につながる提案ができることは別物です。
打ち手:宿題は担当の実案件で出す
研修は、顧客を理解する回、戦略から施策までを一貫させる回、データで成果を追い続ける回の3回でした。工夫したのは宿題です。宿題はすべて、自分が担当するタイトルの実データで出しました。
- 第1回:担当タイトルを支えている顧客と、これから獲得したい顧客を1枚にまとめ、改善案を出す
- 第2回:事業計画から、最も解決すべき課題を1つ選び、方針と施策を書く
- 第3回:最も大事なKPIを追う定型の報告書を見直し、改善の打ち手を仮説として出す
評価の観点は、宿題と一緒に先に伝えました。定量と定性の両方で考え抜いているか。顧客の理解と施策がかみ合っているか。連絡なく提出しなければ、次の回からは参加できない決まりにしました。
あわせて、マーケティングの仕事は広告だけではないとも伝えました。顧客の価値を生む活動はすべて対象で、チームの垣根を越えなければ仕事は進化しません。
講評で伝え続けたこと
講評は次の回の冒頭で行い、良い回答は全員の前で紹介しました。高く評価したのは、事実に基づいて仮説を立て、その仮説に対する打ち手がはっきりしている回答です。
運営する側の都合で考えた回答には、毎回同じことを返しました。数字の前に、まず顧客の視点で考える。数字はあくまで結果です。
3回を通じて伝えたかったのは、手法ではなく、この目的の置き方でした。
やってみて分かった落とし穴
座学と宿題だけでは、身につくことに限りがあります。初回にも、実践に加えて本や記事を読み、自分の言葉で語れるまで整理することが欠かせないと伝えました。
もう一つは、教える側がいちばん学ぶということです。人に教えようとすると、自分の判断の理由を言葉にせざるを得ません。言葉にできた判断だけが、ほかの人にも再現できる型になります。
実践:6名の改善組織を広げる
同じゲーム事業で、私は横断の改善組織を6名で立ち上げ、11タイトルを担当する組織にしました。少人数で多くのタイトルを見るには、成果を出せる人のやり方を、ほかの人が使える形にするしかありません。
そこで、各タイトルの戦略を審査する社内会議に向けて、戦略のフォーマットと記入例をつくりました。
何をどの順で考え、何が書けていれば戦略と呼べるのか。エースの頭の中にあった判断基準を、紙の上に出したのです。
今なら、この「エースの判断基準を言葉にして広げる」部分をAIが担えます。成果を出せる人がまずAIで成果を出し、その判断基準をAIに渡す。
するとAIは、基準を身につけた新人のように、各メンバーの手元で働きます。
順番を逆にして、成果の出し方を知らない人に先にAIを配ると、良し悪しを判断できない成果物ばかりが増えます。
利益を生む人と生まない人の差
拙著『AI時代に仕事と呼べるもの』(東洋経済新報社、2025年11月)では、AI時代に残る人の価値を4つに整理しました。経験知と決断とレビュー、そしてそれらを支えるフィジカルです。
レビューは、成果物の質に責任をもって確かめること。フィジカルは、人に会い、対話して価値を生むことを指します。
利益を生む人と生まない人の差は、この4つに表れます。
- 経験知:未経験の仕事にも自分から取り組む人と、「このやり方しか知りません」と止まる人
- 決断:やるべきことを自分で決める人と、「どうしましょう?」と判断を預ける人
- レビュー:部下やAIの仕事を自分の責任として引き受ける人と、「AIがやったことです」と言う人
- フィジカル:人に会って信頼をつくる人と、対面で会う価値を軽く見る人
AI時代に利益を生むのは、もともと自分で利益を生み出せる人です。 AIは足りない力を補うのではなく、持っている力を増幅します。だから育成の中心は、AIの操作ではなく、この4つを積ませることになります。
育て方:実案件で回す5つの手順
- 最初に育てる人を選ぶ:成果を出せる人から始める。成果物の良し悪しを判断できない人にAIを渡しても、直しの手間が増えるだけ。
- 実案件を1つ選ぶ:施策・プロジェクト・事業から、成果を問えるテーマを1つ選ぶ。架空の演習では、責任も失敗も経験できない。
- 目的を言葉にさせる:背景、目的、今の課題と成功の条件、誰に何を届けるかの順に書かせる。壁打ち(対話で考えを詰めること)で伴走し、AIの使い方はその後に決める。
- AIで実行し、講評する:結果を振り返り、判断の良し悪しを具体的に返す。うまくいかなかった案件こそ、学びの大きい題材になる。
- 型にして広げ、評価とつなげる:うまくいった判断基準を、フォーマットと記入例にして共有する。人事評価も、売上の達成率だけでなく、正しい行動を評価する形にする。
私が執行役員を務めていた上場の建設テックSaaS企業でも、評価に行動の達成を加えました。売上が未達でも、正しい行動をした人が評価され、昇進する例が生まれています。
よくある間違い
- 操作の研修で終わる:AIの操作は学べるが、それだけでは利益につながらない。
- 全員に一斉に配り、使い方は現場任せにする:判断できない成果物が増え、確認の手間で生産性が下がる。
- 架空の題材で教える:実案件の責任がないと、決断も失敗も経験にならない。
- 失敗した人を評価しない:挑戦するほど評価が下がる組織では、誰も新しいやり方を試さなくなる。
- AI活用の目標を導入率で置く:利用の広さではなく、受注率や広告の投資対効果など、利益の手前の指標で置く。
AI人材の育成は、AIの研修から始めるものではありません。実案件で目的を決め、決断し、講評を受ける。その繰り返しを、AIのおかげで速く回せるようになりました。研修と組織づくりを経験してきた私の実感です。
育成を始めるなら、まず社内で成果を出している1人と、その人が抱える実案件を1つ選んでください。
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