コラム|データ活用
顧客分析で年10億円超の利益:「買い回るお客様」は幻想だった
大手商業施設で会員の購買データを機械学習で分け、主要顧客の離脱を防いだ実践から、顧客分析の進め方を書く。
執筆:三浦慶介(株式会社グロースドライバー 代表取締役)
顧客セグメンテーションとは
顧客セグメンテーションとは、顧客を似た者どうしのセグメント(群)に分けることです。分け方は、大きく3つの段階を経て進んできました。
- ペルソナ:典型的な顧客像を描く。傾向はつかめるが、そんな人が実在するのかをデータで確かめられない
- ランクとクロス分析:購買金額や回数で分け、別の軸と掛け合わせる。RFM分析(最後にいつ・どれくらいの頻度で・いくら買ったかで分ける方法)もこの仲間。基礎の理解には役立つが、同じランクの顧客が同じ買い方をしているとは限らない
- 機械学習による分類:買い方そのもので分ける。誰がどんな買い方をしていて、どうすれば上位の顧客になりやすいかまで分かる。ただし、作るのに手間がかかる
ランクとクロス分析までは、マーケティングに携わる人の基本です。そこで見えない顧客の違いを捉えるのが、機械学習による分類です。
実践:大手商業施設の顧客分析
大手商業施設で、マーケティングの改革を主導したときの話です。
着手したときの状態
会員カードの購買データは、すでにたまっていました。ところが、顧客をめぐる議論は「20代の女性」のような大まかな顧客像か、どの店の売上が高いかで止まっていました。
調査をすれば、顧客の傾向は見えます。ただ、それを具体的な施策に落とし込めない。施設は「服を買い、食事をし、雑貨も買って帰る」顧客を思い描き、館内の買い回りを促していました。
最初にしたこと:分析の前に、顧客を見に行く
分析の切り口は、人が決めます。最初にしたのは、データを開くことではなく、館を歩き、販売スタッフに話を聞くことでした。どんな顧客が、どの店とどの店を一緒に使っていそうか。その仮説を先に立てました。
分析の計画がずれていると、何度もやり直すことになります。分析には数か月かかりましたが、その大半はデータの処理ではなく、こうして顧客の感覚をつかみ、切り口を試し直す時間でした。どのデータを使い、どれを捨てるかも、顧客への肌感で決めるしかありません。
分析:買い方そのもので分ける
年代や購買金額ではなく、どんな種類の店で、何回買っているかで顧客を分けました。使ったのは機械学習です。
手法は一つに頼りませんでした。全体を特徴で上から分けていく手法と、似た買い方の顧客を下から束ねていく手法の両方を試しています。上から分ける手法は、手元のデータに合わせすぎてしまい、データが更新されると使えませんでした。複数の手法で一貫して出てくる分かれ方を採りました。
違和感:「買い回るお客様」は幻想だった
分けてみると、思い描いていた顧客像とは違う結果が次々に出てきました。
顧客ごとに、使う店の種類は大きく偏っていました。服を中心に買う顧客、服は買わずに食品や雑貨を買う顧客、飲食と本の店に立ち寄る顧客。服も食事も雑貨もまんべんなく買い回る顧客は、ほとんどいなかったのです。
館の中のいろいろな種類の店を使ってもらおう、という発想そのものが、顧客の側には立っていなかったことになります。それまで顧客をひとくくりに捉えていた私たちには、大きな衝撃でした。
解釈:分けた群に名前を付ける
分析は、解析と解釈の2つでできています。データから群を見つけるのが解析、その群が何者なのかを読み取って名前を付けるのが解釈です。
解釈には、業態への理解が要ります。分析の担当者だけでは、群に名前を付けられません。そこで、分析の結果を現場と見比べ、違和感はないか、抜けている顧客はいないかを確かめる作業を数回繰り返しました。
最後の基準は、現場が腹落ちするかどうかでした。最初に出た結果が、いちばん良いとは限りません。
打ち手:買い回りの促し方を変え、主要顧客の離脱を防ぐ
打ち手は2つに絞りました。
一つは、買い回りの促し方を変えることです。服も食事も雑貨も、と館全体を回ってもらうのではなく、顧客がすでに使っている種類の店の中で、似た店をもう一つ使ってもらう。よく行く店では、来店の回数や1回の買い物の額を上げてもらう。顧客の買い方に沿った販促に切り替えました。
もう一つは、主要顧客を守ることです。分けてみると、売上を支えている群は限られていました。利益を支える主要顧客を定義し、その顧客の離脱の兆しを捉えて引き止める施策に力を集めました。
振り返り:施策の反応を群ごとに並べる
群を分けただけでは、分析で終わってしまいます。そこで、施策ごとに、どの群が反応したかを○×で並べる帳票をつくりました。たとえば、次のような問いに答えられるようにしています。
- 割引の期間によく買うのは、どの群か
- バーゲンで買っているのは、どの群か
- 新しい店の開業で来たのは、どの群か
- 飲食のチケットは、服を買う顧客にも響くか
狙った群に届いたかを振り返れるようになり、反応のない群への無駄打ちが減りました。浮いた販促費は、反応する群への施策に回しました。
結果
主要顧客の離脱を防ぐ施策に集中した結果、年間10億円超の利益創出につながりました。
やってみて分かった落とし穴
- 分析のための帳票をつくっても、使われない。施策の仮説がすぐに出てくる帳票にする
- 群を細かく分けすぎると、群どうしが近くなり、顧客が群の間を行き来しやすくなる。議論に使える数にとどめる
- 分析を外に任せきりにすると、現場の感覚とずれた群になる。解釈は、現場と一緒にする
主要顧客の線の引き方
主要顧客を決めるときは、線をどこで引くかがすべてです。ここがぶれると、誰も結果を理解できません。私が使っている目安は次のとおりです。
- 大きな数字を、一つの軸で、まず見る。いきなり2つ以上の軸を掛け合わせない
- 線は、売上の8割ほどを占めるところで引く
- 経営が追う指標は、上位の数群の顧客数と、その売上にする
この指標さえ見ていれば方向を決められる、という数字が見つかれば、戦略と施策を一本でつなげられます。
今ならAIでこう進める
当時は、手法の選定からプログラムを書き、クラウドで計算を回すまで、専門の分析チームが数か月をかけました。
今は、購買データをAIに読ませれば、分け方の試行錯誤を数日で回せます。空いた時間は、現場の聞き取りと顧客像の仮説づくりに回せます。主要顧客の離脱の兆しも、AIが毎週集計して知らせます。
ただし、何で分けるかと、分けた群が何者かを決めるのは、人の仕事のままです。
顧客分析の進め方:5つの手順
- 顧客への問いを決める:事業を支えているのは誰か、その人たちで売上の何割か、その人たちが何を求めているか。
- 現場で仮説を立てる:店や営業の現場を見て、スタッフに聞き、どんな顧客がどう買っていそうかを書き出す。
- 買い方で分ける:複数の手法で試し、一貫して出てくる分かれ方を採る。
- 名前を付け、現場と確かめる:違和感と抜けがなくなるまで、数回繰り返す。
- 帳票にして使う:施策ごとに群の反応を振り返り、使いながら分け方を磨く。
よくある間違い
- 年代と性別だけで分ける:同じ30代の女性でも、買い方はまるで違う。
- 商品の分析だけをする:どの商品が何個売れたかだけを追うと、値下げのような判断に流れやすい。
- 細かく分けすぎる:群が多すぎると議論できず、施策にも結びつかない。
- 一度つくって終わりにする:施策の振り返りに使いながら磨く。
- 分析を外に任せきりにする:現場の感覚を通らない群は、現場で使われない。
顧客分析は、データの作業である前に、顧客を知る作業です。データを見る前に、顧客を見る。
まずは、自社の売上の8割をつくっている顧客が誰かを、言葉で説明できるかを確かめてみてください。
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