コラム|営業
営業KPIの設定:商談数を追うほど未達になる理由と、設定例
売上を掛け算に分けるだけでは、営業KPIは決まらない。上場SaaSで部門ごとのKPIを設定し直した実例から、設定例と落とし穴をまとめた。
執筆:三浦慶介(株式会社グロースドライバー 代表取締役)
営業KPIとは
KPI(重要業績評価指標)は、最終的な目標に向かって進んでいるかを、途中で確かめる指標です。最終的な目標の指標はKGI(重要目標達成指標)と呼び、営業ならたいてい売上や粗利になります。
営業KPIとしてよく使われるのは、アポ数、商談数、提案件数、受注件数、成約率、受注単価です。
本来のKPIは、成果より先に動き、成果を左右する指標のこと。ところが現場では、数えやすい活動量がそのままKPIになっていることが少なくありません。私は区別のために、成果を本当に動かす行動指標を『ドライバーKPI』と呼んでいます。
商談数×成約率×単価では足りない
営業のKPIツリー(KGIをKPIに分解した木の形の図)は、多くが「売上=商談数×成約率×受注単価」から始まります。分解は正しいのですが、この木のまま目標を置くと、商談数を追うほど未達に近づきます。理由は4つあります。
動かせるのは商談数だけ
成約率と受注単価は、商談の結果として決まる数字です。上げろと言われても、何をすればよいかは分かりません。現場が自分で増やせるのは商談数だけなので、目標の圧力はすべて商談数に集まります。
掛け算の要素が引っ張り合う
商談を詰め込むほど、1件ごとの準備や見極めの時間は減ります。木の上では独立した掛け算でも、現場では商談数を増やすほど成約率と単価が下がります。
私が営業改革を任された上場の建設テックSaaS企業でも同じでした。計画は、商談数・成約率・成約単価の目標を置いて、商談数を追うだけ。成約率と単価をどう上げるかは、どこにも書かれていませんでした。
顧客の違いが平均に消える
同じ1件の商談でも、相手によって決まりやすさも金額も違います。私が支援しているBtoBマーケティング支援企業の受注データでは、売上の約7割を上位約8%の顧客がつくっていました。平均の成約率と単価で組んだ木には、この偏りが表れません。
部署ごとに木が分かれる
マーケティングはリード数、営業は受注件数、カスタマーサクセスは解約率。部署ごとに木を作ると、各部署の数字は達成しても、事業の数字が届きません。リードの質が悪い、営業が追わない、という対立もここから生まれます。
実践:部門別のKPI設定例
上場の建設テックSaaS企業で、執行役員として営業改革を担ったときに設定したKPIを紹介します。経緯は別のコラム『成長ドライバーとは』に書いたので、ここでは各部門のKPIを何から何に、なぜ変えたかを書きます。
着手したときのKPI
新規営業も既存営業も、追っていたのは商談数でした。カスタマーサクセス(導入後の活用を支える部門)のKPIは、勉強会の開催回数。どの部門も数字は積み上げられるのに、それが売上にどうつながるかは誰も説明できませんでした。
新規営業:高単価パッケージの提案総量
出発点は、単品売りをやめ、他社にない上位機能をまとめたパッケージの提案に変えたことです。成約率を落とさずに、新規の受注単価は約3倍になりました。
KPIは「高単価パッケージの提案総量」にしました。件数でなく金額の総量にしたのは、使いこなせそうな顧客へのパッケージ提案そのものが、成果を決める行動だったからです。
鍵は、成約率を先に安定させたことにあります。SFA(営業支援システム)の商談データで成約しやすい顧客をつかみ、商談の型で質をそろえました。すると木は「売上=パッケージの提案金額×成約率」まで縮み、追う数字が1つになりました。
既存営業:受注確度50%以上の提案総量
既存の顧客は全社が基本機能だけを使っていて、この製品はこの価格のもの、という認識ができていました。上位機能の価値を伝えたうえで、顧客の社内で決裁を通してもらう必要があります。
この製品は拠点ごとに導入が決まり、費用は本社が持つことが多くありました。社内に活用事例がないと、決裁が下りません。まず1社目の成功をつくり、受注した商談に共通する条件を洗い出しました。
- 顧客の社内に、自社製品の活用事例がある
- その活用事例を、先方の決裁者が知っている
- 先方の組織図をつかみ、発注の妨げを取り除けている
この条件をSFAに登録し、商談ごとの受注確度が分かるようにしました。KPIは「受注確度50%以上の商談の提案総量」です。
それまでは、近況を伺うだけのアポも1件と数えていました。1社ごとに攻め方の計画を立てて動くことを、KPIで求める形に変えたのです。
カスタマーサクセス:上位機能の活用支援の回数
勉強会は手段であって、目的ではありません。開いても顧客が使いこなすとは限らず、上位機能の契約につながる保証もないことが、データから見えていました。
営業が上位機能を売ろうとしているのに、カスタマーサクセスは基本機能の勉強会を数えている。ここでKPIが分断していました。社内のサーバーにたまっていた利用ログをかき集めて分析すると、次の傾向が見つかりました。
- 基本機能の中に、使っていないと他社に乗り換えられやすい機能がある
- 別のある基本機能を使う顧客は、乗り換えが少ない
- その機能を使っていない顧客は、上位機能まで進まない
これで、顧客を活用の段階で分けられるようになりました。上位機能に進める段階の顧客を増やすことが、良い行動になります。KPIは「上位機能の活用支援の実施回数」にし、乗り換えを防ぐ支援は別のチームに分けました。
インサイドセールス:役割から見直す
インサイドセールスは、電話やオンラインで見込み客と接点をつくり、商談を営業に渡す部門です。この企業では、役割を見直した末に部門をなくしました。高単価のパッケージを売るなら、1社ごとの責任者をはっきりさせるほうがよいと判断したためです。
インサイドセールスを置くなら、KPIはアポ数にしません。有効な商談でなくても渡してよいのか、という問いに答えられないからです。置くべきは「狙った顧客群の商談を、何件営業に渡したか」です。
法人向け教育サービス企業のデータでは、狙った層のリード1件から見込める売上は、それ以外の有効な層の約6倍でした。アポ数で数えると、この差は消えてしまいます。
部門のKPIを一本につなぐ
既存営業の受注確度を上げる条件の1つは、顧客社内の活用事例でした。その事例をつくるのが、カスタマーサクセスの活用支援です。一方の部門の成果が、もう一方のKPIの材料になるように組みました。
以前は、営業からカスタマーサクセスが勉強会の代行チームのように見え、KPIのずれが対立の種になっていました。KPIがつながって売上を一緒につくるチームになり、営業生産性は前年比160%になりました。
KPIと人事評価をつなげる
売上達成率だけの評価が壊すもの
以前の営業の評価は、売上達成率だけでした。目標の根拠が弱いので、評価は形だけになります。何もしなくても追加の注文が来る顧客の担当者ほど、成績が良く見える状態でもありました。KPIを変えても、評価がそのままなら行動は元に戻ります。
行動の達成も評価に入れる
KPIが決まったことで、売上目標も根拠をもって置けるようになりました。そのうえで、評価の対象を、売上達成率からKPIの達成にまで広げました。売上目標に届かなくても、KPIをやり切って昇進した人もいます。
カスタマーサクセスは、勉強会を開くチームから、上位機能の活用を提案するチームに役割を変えました。営業はできないという声もありましたが、当時の部長が一人ひとりと向き合ってくれました。採用の基準と研修も、KPIに合わせて見直しています。
部署をまたぐ貢献も評価する
部署をまたぐ貢献は、評価に入れないと誰もやらなくなります。営業で起きていることをマーケティングに伝えた。顧客の不満を開発に伝え、満足度が上がった。
こうした動きを当然で済ませず、評価で報いる。それが、分断を許さないという経営の意思表示になります。ただし、KPIをいきなり評価に組み込むと、仮説が外れたときに現場が混乱します。先に一部のチームで試し、手応えが出てから組み込みます。
営業KPIの設定手順
- KGIを決める:事業として何を伸ばすかを先に決める。部署のKPIから作り始めない。
- 顧客を群に分ける:今の売上、これから取れる売上、成約しやすさで分け、力を集める群を決める。
- 成功した商談から逆算する:狙った群から受注できたとき、何がそろっていたかを洗い出す。
- 部門ごとに指標を選ぶ:KGIへの影響が大きく、その部門の行動だけで動かせるものにする。
- 部門のKPIをつなぐ:ある部門の成果が、別の部門のKPIの材料になるように並べる。
- 測れる記録にする:受注確度の条件や活用の段階を、SFAに残せる形にする。
- 一部で試してから広げる:手応えが出たものだけを全体のKPIにし、評価と研修に組み込む。
- 部署をまたいで振り返る:部門のKPIを並べて見る会議を持ち、どの動きが成果につながったかを確かめる。
よくある間違い
- 部署ごとにKPIを決める:部署の数字はそろっても、事業の数字が届かない。
- 手段の回数をKPIにする:勉強会の開催回数やアポ数は、やれば増えるが、成果につながる保証はない。
- KPIを並べすぎる:すべてを追うと、どれにも力が集まらない。KPIにつながらないことは、やらないと決める。
- 目標を積み増しで決める:未達の分を次の期に足すだけの目標は根拠がなく、評価も形だけになる。KPIから逆算して置く。
何を数えるかを決めることは、誰のどんな行動を評価するかを決めることです。営業KPIの設定は、数字の話である前に、組織の優先順位を決める仕事だと考えています。
今のKPIを1つずつ取り出し、それを増やせば本当に売上が増えるのかを確かめてみてください。
この記事を書いた人

