コラム|営業
営業の属人化を解消する:トップセールスの再現性はどうつくるか
上場の建設テックSaaS企業で、埋もれていた成功事例を商談の型にして全員に広げた実践から、トップセールスの再現性のつくり方を書く。
執筆:三浦慶介(株式会社グロースドライバー 代表取締役)
営業の属人化とは
営業の属人化とは、成果が特定の人の勘や経験、人脈に頼っていて、ほかの人が同じ成果を出せない状態のことです。売上の多くを一部のトップセールスがつくり、その人が抜けると数字が崩れます。
解消しようとして、トップセールスに同行させたり、トークを資料にまとめてもらったりする会社は多いです。
ただ、それだけで成果が広がることはまれです。本人にも言葉にできない部分が多く、聞いた側も何を真似すればよいか分からないからです。
トップセールスの再現性は、人を真似ることではなく、型をつくることで生まれます。私は、型にする対象を次の2つに絞っています。
- 成果を出している営業が、実際にやっていること
- それを全員に徹底させる、マネジメントの仕事
反対に、顧客との対話そのもの、新しい営業手法、企画力は型にしません。目指すのは、やるべきことが全員に、漏れなく実行される状態です。
実践:埋もれた成功事例を商談の型に
上場の建設テックSaaS企業で執行役員を務めていたころ、私は営業改革を任されました。
着手時:売り方が人ごとにばらばら
営業の目標に届かない状態が続き、現場には、どうせ達成できないという空気がありました。組織は商談の数を追っていましたが、売り方は人ごとにばらばらで、成約率が伸びませんでした。
商談の記録を開いても、失注の理由が一言しか書かれていない。どの商談で何が起きたのかを、後から追えない状態でした。
掘り起こし:勝ちパターンは社内にあった
私はもともとマーケティングと商品戦略の担当で、営業から見れば外の人間でした。そこでまず、営業の中心メンバーに話を聞いて回り、数年分の経緯をさかのぼりました。
分かったのは、成功事例と言える売り方が、社内にきちんと残っていたことです。ところが、人が次々に入社するなかでそのやり方は伝わらなくなり、代わりにそれぞれの我流が広がっていました。
この組織の属人化は、トップセールスがやり方を抱え込んで起きたものではありませんでした。共有する仕組みがないまま組織が大きくなり、勝ちパターンが薄れていった結果だったのです。
違和感:昔の勝ちパターンが古くなっていた
ただし、掘り起こした成功事例をそのまま型にしても、うまくいかないことも分かりました。
各地の商談に同行すると、営業が熱心に伝えていたのは、数年前には先進的だった機能でした。今ではどの会社も備えていて、もう差がつきません。
一方で、追加の選択肢として扱われていた機能を、他社にはない強みとして高く評価する顧客が一定数いました。顧客が価値を感じている点と、営業が伝えている点が、ずれていたのです。
打ち手:パッケージ提案を商談の型にする
評価の高かった機能を組み合わせて1つの提案にまとめ、その売り方を商談の型にしました。型には、この提案を使いこなせそうな顧客の条件と、商談の進め方を入れています。
現場からは、高すぎて売れないのではと心配する声が上がりました。そこで、まず私自身が商談に入り、提案への顧客の反応を見せることから始めました。
型ができたことで、担当者による商談の質の差が縮まり、成約率が安定しました。成約率を落とさないまま、新規の受注単価が約3倍に上がりました。
既存の顧客には、まず1件の成功をつくる
既存の顧客への提案は、さらに難しいものでした。すでに一部の機能を使っている顧客に、パッケージの価値を理解してもらい、社内の決裁まで通してもらう必要があったからです。
ここでは、いきなり型を全員に配ることはしませんでした。まず1件目の成功事例をつくることに集中し、そこから受注に近づく条件を確かめたうえで、型と目標にしました。
型は机の上で考えるものではなく、実際の成功から言葉にするものです。
広げ方:配るだけでは我流に戻る
型を全員のものにするために、次の3つを組み合わせました。
- やって見せる:責任者が現場に出て、型どおりの商談を見せる
- 練習する:研修を毎週、止めずに続ける
- 評価する:売上だけでなく、決めた行動の目標を達成できたかも評価する
型を配っただけでは、忙しい時期にすぐ元のやり方に戻ります。見せて、練習して、評価にまで入れて、初めて全員の行動が変わりました。
結果:人が替わっても成果が続く
KPIや評価制度の見直しも含めた一連の改革の結果、営業生産性は前年比160%まで伸びました。ここまでの取り組みは、AIを使わずに人の手で進めたものです。
私が営業の担当を離れたあとも、引き継いだ責任者のもとで生産性はさらに伸びました。特定の人に頼らずに成果が続いたことが、属人化を解消できたいちばんの手応えです。
型の中身は、記録を比べて見つける
トップセールスに何が違うのかを聞いても、多くの場合、本人は特別なことはしていないと答えます。差がつく行動は、本人にとって当たり前になっているからです。
グロースドライバーとして支援しているBtoBマーケティング支援企業では、別の方法をとりました。約120件の商談の録音を、受注に至ったものと至らなかったものに分けて比べたのです。
見たのは、商談の中で何を確かめていたかです。予算、決定の時期、決裁の手続き、利用の規模。この4つの確認事項のうち2つ以上を押さえた商談は、受注率が約1.8倍(約24%→約42%)でした。
こうした差がつく行動が、型の中身になります。トップセールスの勘を聞き出すのではなく、記録から差を見つけ、全員が確かめられる項目にする。そうすれば、経験の浅い営業でも同じ行動をとれます。
マネージャーの仕事を「型の発明」へ
型がない営業組織では、マネージャーの1日が部下のフォローで終わります。
- 大事な顧客への連絡が、担当者によって漏れる
- 商談の内容が人によってばらばらで、伝えるべき強みが伝わらない
- 記録に必要なことが残らず、振り返りができない
- 連絡漏れを、マネージャーが毎日追いかける
私はこれを、マネージャーの仕事がベビーシッターになっている状態と呼んでいます。本来の仕事は、成果につながる型を見つけ、言葉にし、更新し続けること。いわば型の発明です。
AIを個人に配っても、属人化は解消しない
AIに期待する会社も増えています。ただ、AIを個人に配るだけでは、使いこなせるのは型を持っている人だけです。型のある人はさらに速くなり、ない人との差はむしろ開きます。
速くなったエースが、独立や転職を選ぶこともあります。属人化は解消するどころか、かえって強まるのです。
型があればAIで成果は大きくなり、型がなければゼロのままです。型が先、AIが後。今なら、言葉にした型をAIエージェント(決められた仕事を自動で進めるAI)に組み込み、全員の商談で毎日回します。
- 前日から朝:その日に連絡すべき顧客を、AIが選び出す
- 連絡するとき:顧客ごとに、商談をお願いするメールの下書きをAIが用意する
- 商談が終わったら:話した内容を、AIが記録にまとめる
- そのあと:次に何をいつまでにするかをAIが示し、お礼のメールも用意する
仕組みづくりには、業務提携先のBOSSコネクトというツールを使っています。漏れなく実行する部分をAIが担えば、営業は顧客との対話に、マネージャーは型の発明と更新に時間を使えます。
どの型を使うかの承認と、型に当てはまらない場面の判断は、人が受け持ちます。
再現性をつくる6つの手順
- 埋もれた成功事例を掘り起こす:今のトップだけでなく、数年さかのぼり、過去に成果が出ていたやり方も聞き取る。
- 記録を受注の有無で比べる:商談の記録や音声を比べ、受注した商談に共通する行動を探す。
- 現場で今も通用するかを確かめる:商談に同行し、顧客がどこで身を乗り出すかを見る。昔の勝ちパターンは、古くなっていることがある。
- 型にする範囲を絞り、言葉にする:誰に提案し、何を確かめ、何をどの順で伝えるかを決める。対話や企画力は型にしない。
- 一部で成功をつくってから広げる:協力してくれる営業と対象の商談を絞って試し、成果が出た型だけを全員に広げる。
- 見せて、練習して、評価に入れる:責任者がやって見せ、研修を続け、型どおりの行動を評価する。型を誰が承認し、いつ見直すかも決めておく。
よくある間違い
- トップセールスに資料を作らせて終わる:本人が言葉にできない部分にこそ差がある。記録を比べて見つける。
- 対話や企画力まで型にする:台本どおりの商談になり、顧客の話を聞けなくなる。型にするのは、確かめることとやるべき行動。
- 昔の成功事例をそのまま型にする:数年前の強みが、今では当たり前になっていることがある。
- 型を配って終わる:見せる、練習する、評価するがそろわないと、忙しい時期に我流に戻る。
- AIを個人に配れば再現できると考える:型を持つ人だけが速くなり、差は広がる。
属人化の解消は、トップセールスの力を弱めることではありません。トップのやり方を組織の財産に変え、誰が担当しても、やるべきことが漏れなく実行されるようにすることです。
まずは、受注した商談と失注した商談の記録を、数件ずつ並べて読み比べてみてください。
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